神戸市外大

マレーシアというちょっとレアなところに留学して、じぶんが昔からやりたかったことを思い出した。

浅井安奈 外国語学部 英米学科 2016年度入学/2020年度卒業

どうせ留学するならだれも行ったことがないところへ行きたかった。

 神戸市外大からの留学と言えばイギリス、アメリカ、カナダなどメジャーな英語圏が多いんです。でも、今みたいな留学飽和時代にみんなと同じ経験をするのでいいんだっけ?私はそれで輝くことができるんだっけ?という引っ掛かりがずっとありました。どうせならみんなと違うところへ行きたいと思いました。東南アジアが好きでよく旅行もしていて、伸び盛りというのでしょうか、成長過程にある国々の現地で感じる熱量に惹かれていました。東南アジア人の寛容さも落ち着きます。それに比べると、日本はちょっぴり肩身が狭くて生きづらいかなあとも思います。留学先のマレーシアは英語も通じるし、お隣のシンガポールよりも成長真っ只中で臨場感のあるイメージがわたしの中にありました。 

 入学したのはマレーシアの「Monash University」という、オーストラリアに本籍を置く大学です。オーストラリア校をはじめアフリカ校からの留学生も多くて、じつに多国籍で刺激的でした。外大ではマーケティングのゼミに所属していたということもあって、ここでもマーケティングやマネジメントを専攻していました。

毎週のようにダンスやフード美狮MGM官网があるにぎやかなキャンパス。

「日本は時代遅れ」という評価に衝撃を受けた。

 マーケティングの授業で日本企業が“失敗例”として取りあげられたことがあったんです。「日本は時代遅れだ。韓国や中国のマーケティングの方が優れている」という講義を聞いて強い衝撃と恥ずかしさがこみ上げました。私たち日本人は「日本はそれなりに豊かな国」という幻想にあぐらをかいているのかもしれない。マレーシアという成長国家において日本はそんな風に映っているのか。と、かなり落ち込みました。この状況をどうにかしないと、この先じぶんが年を重ねて海外へ赴いたときに日本人であることに引け目を感じてしまうような気がして危機感を覚えました。

知人のマレーシアンスタイルの結婚式に参列させていただきました。

日本をリブランディングしなければ!

 そこから日本の対外的な見え方に興味が湧きました。“日本をリブランディングしたい”というと壮大すぎますが、要は“日本を愛するひとを増やす”ことで日本をまずは内側から変えて、最終的にはその見え方も変えていきたいと思いました。あらゆる企業や文化が持っているさまざまな価値観を伝えていくことで日本人が多様性に寛容になり社会を愛することができれば日本自体が変わっていくだろうなあ、と漠然と思うようになりました。そのことがいまの仕事にもつながっています。

大学寮の窓から毎日見ていた大渋滞の景色。車社会でした。

本能の赴くままにやりたいことだけをやろう。

 「Monash University」への留学を無事終了したのち帰国までのビザに2カ月間の猶予があったんです。正直、義務教育期間と外大在学中は勉強を優先していたせいか、なんだか詰め込まれすぎてしまって、幼い頃やりたかったことを知らず知らずのうちに忘れてしまっていたなと、この放り出されたタイミングで初めて気づきました。いまこそじぶんの好きなことをしよう、悔いがなくなるまでやり尽くそうと考えました。
 じぶんとしては、“本能の赴くままにやりたいことだけをやる期間”とこの2ヶ月間を位置付け、好きなところに住んで好きなことにお金を投資しはじめました。

ペナン島での放浪生活。

 まず手はじめに大学があったクアラルンプールを脱出してペナン島へ移住しました。ペナン島はウォールアートが街中にあり、アーティストが沢山輩出されるクリエーティブな街です。そこで目を覚ましたじぶんの本能は「デザインを勉強してみたい!」ということでした。小学生のころはファッションデザイナーになりたいと思っていたんです。見様見真似でファッション画を描いたりしていましたが、地元の愛媛には専門的に勉強する場がなく、静かに蓋をするように諦めていました。(すり替わるように英語に没頭していったことが救いだったのですが…)昔やりたかったことは“デザイナー”や“クリエーター”だったんだと、本能に火がつきました。イラストレーターというデザインアプリをPCにインストールして、図書館にこもり切ってとりあえず手を動かしてあれこれデザインしてみました。身近なひとたちに声をかけてロゴを考えさせてもらったりしていました。
 2番目に目覚めた本能は「ひとと密に関わる!」ということでした。それも現地寄りのひと、Monash内では出会えなかったような、平均的な感覚をもつ幅広い年齢のひとと関わってみたかったんです。そしてたまたま見つけた「Hin Bus Dept」というペナン島最大のアート支援団体のスタッフ募集に応募して、唯一の外国人として在籍することができました。これが本当に楽しくて、地元のアーティストの作品を市内のいろんなところに展示して来場者に対話形式で作品を解説していました。じぶんにはアートの才能やクリエーティブのスキルはないかもしれないけど、それらの活動を身近に見て刺激を受けるという環境はじぶんの人生に不可欠なんだと改めて感じました。

Hin Bus Deptの研修では、作品の解釈や鑑賞者との対話方法を学びました。

ジョージタウンの真ん中にある交流スペース。

アーティストや現地の方と集い、展示会のローンチをお祝いをしました。

 また週一で、地元のフリーペーパーのデリバリーもしていました。市内を歩きながらホテルやカフェバーを訪ねて配布するだけなんですが、各店舗のオーナーと会話するのが楽しいだけでなく、街を歩けば顔見知りがいるような状況になっていたのは忘れがたい経験です。

風情があり観光客も多いジョージタウン周辺を歩き回っていました。

昔やりたかったことを思い出した。

 ペナンはスモールコミュニティなのにすごくクリエーティビティが根付いていて外国人にも開放的で、個人的にはじぶんの理想とする場所に近いと感じました。外大在学時に2週間だけ瀬戸内のゲストハウスで住み込みのバイトをして以来、地域のコミュニティづくりとそこで感じる温かさにはずっと惹かれるものがありました。マレーシアでも似たような感覚を吸収することができたのは良かったと思います。「クリエーティブな環境にいる」「戦略やプランニングへの興味」「ひとやコミュニティづくりへの関心」など、本来の自分が呼び起こされ、結果的に全部がつながっていきました。ただし、じぶんはモノをつくる側というよりは、アタマで考える側の方が向いているかもしれないと気づくことができたのも大きな収穫でした。
 そして、いまは大手広告代理店でマーケティングのセクションにいます。勤務地は入社以来2年間東京ですが、まわりのひとは“東京至上主義”というか、良くも悪くも東京都民の目線で物事を考えがちなんですよね。話題化や売上を効率化する上ではその感覚になるのも重々分かるのですが、ちょっぴり違和感を抱くじぶんがいます。でもこのまま、その違和感を忘れないことこそが、日本社会を隅々まで考えるために必要だと思っています。そしてコミュニケーションのプロとして多様な価値観を伝えていくことで日本に変化を与えたいと思っています。日本人のマジョリティが見逃していることに対して、「いやいや、ちょっと違うんじゃないですか」と言えたら、きっと少しずつひとびとを代弁していける。日本のリブランディングにつながっていくのではないかなと思ったりしています。

クリエイターとインフルエンサーばかりのHin Bus Deptメンバー。

留学から気づいたこと、学んだこと。

 留学して、英語で十分に想いを表現できないもどかしさに悩んだこともあります。レポートでは評価されるのにプレゼンの説得力が足りない、“堂々と話せていないな”という自覚がありました。ただ、純粋に関心を共有するひとが相手ならいくらでも言葉が湧いてくることが分かってからは会話量を増やすことができました。話さなければならない状況より、話したい状況をじぶんで作ることで、コミュニケーション能力が一気に開花した感覚がありました。
 日本人のグローバルスキルのレベルが低いこと、日本人の想像よりも日本のイメージが低いこと、日本国内ではダイバーシティへの想像力が足りていないことなども留学を経て実感することができました。
 あれにもこれにも興味があって、これだという1個を持てない状態のままここまで来たのがわたしです。興味の対象が細々とたくさんある「関心の寄せ集め」状態だったけど、留学を通してじぶんの軸がハッキリと見えて夢を持つことができました。
 じぶんはクリエーティブに生きたい、マーケティングでひとについて考え続けたい。このふたつを掛け合わせたらわたしの理想の生き方になるんだとイメージできました。

いったんレールから外れてみるのも悪くない。

 休学はわたしにとっては、じぶんを総ざらいするために必要なことで、おかげでじぶんの生き方を見つけることができました。“gap year”と言いますが、猶予期間を持つことを後輩のみなさんも考えて良いと思います。神戸市外大は真面目な学生が多く、アルバイトにまで精を出し過ぎて、就活で苦労するひとも多い印象です。
 休学して一度レールから距離を置いてみて“童心”や”本能”を呼び覚ますのも良いのではないでしょうか。休学は、じぶんの大切にしてきたことと将来の生き方をブリッジさせる、もしかしたら最初で最後の機会になるかもしれません。じぶんを理解しきったという自信こそが、今後あなたらしく生きるための一番の武器になるはずです。

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